安全保障は、歴史的、伝統的には「国防」が該当する、「軍事力を用いて、国家の領土や政治的独立を外部からの脅威から守ること」が最も基本的な概念でした。今日においても、それは極めて重要な国家の役割の一つとされています。
しかし、「国家の安全保障」ではなく、国際社会の秩序を人間・社会の延長として認識し、国家よりもむしろその最小構成単位である人間一人ひとり(個人)に注目した「人間の安全保障」という新しい考え方があります。
それは、個人の生存、生活、尊厳を脅かすさまざまな脅威──貧困、飢饉、感染症、災害、環境破壊、紛争、組織犯罪、薬物、人権侵害など──に対し、「人間」の「安全」を広く、積極的に守るものとして、国際社会の新しいコンセプトとして重要視されています。
「人間の安全保障は、現在の、そして新たに生まれつつある脅威、すなわち幅広く分野横断的な脅威に対応し、人々の生存、生活、尊厳を守ることをねらいとしています。このような脅威は、絶対的な貧困や紛争の中で暮らしている人々だけに及んでいるわけではありません。現在では、先進国、途上国を問わず、全世界の人々が多種多様な安全が脅かされうる状況の下で暮らしているからです。こうした脅威は各国の政府と国民にとって、ともに深刻な課題を突きつけています」
「グローバル化、相互依存が深まる今日の世界においては、貧困、環境破壊、自然災害、感染症、テロ、突然の経済・金融危機といった問題は国境を越え相互に関連しあう形で、人々の生命・生活に深刻な影響を及ぼしています。このような今日の国際課題に対処していくためには、従来の国家を中心に据えたアプローチだけでは不十分になってきており、「人間」に焦点を当て、様々な主体及び分野間の関係性をより横断的・包括的に捉えることが必要となっています」